銀座の彼は対岸の向こう
正直に告白すると、先月から一ヶ月以上、女性とは全く遊んでいませんでした。女から「最近どうですか?」とか「旅行に行ってきたんだけど、お土産を渡したいの」的なLINEが飛び交うなか、徹底的な既読スルーを決め込んでは、仕事と読書に没入するという生活をしていた。自分には昔から、こういう時期があって一旦そうなってしまうと、なにも出来なくなってしまう。たとえば10代の頃ですら「ペンギンクラブ」を片手に、猿のようにマスターベーションに励んでいた日々が、いきなり終わりを告げ、半年以上もの間、純文学に傾倒していたりしていた。中高生なんてエロスの権化のごとく思われがちだが、少なくとも自分の学生生活の4分の1は小室友里ではなく、谷崎潤一郎や大江健三郎といった存在が興奮のターゲットであった。要は、これが自分の仕様である、ということが言いたい。
とはいえ「どうでもいい」と思わなくなる日々なんて、一体どうすればそんなふうに戻るのか解らないまま、仕事あがりに、マツモトキヨシでシャンプーをカゴに投げ込んだある日、友達のサカモトから「久々に夕飯でもどう?」という連絡がきた。
彼のプロフィールを、一言でいうなら、外資系生命保険のセールスマンで高所得者の、まあプチ成功者ってやつだ。同い年でもあり、営業仕事の傍ら、出会った女の子と時折、お遊びをするような、ナンパ以前からの数少ない遊び友達だったが、2年前、彼が結婚したこともあって、あまり会わなくなっていた。僕たちは「女」で繋がっていた仲ともいえるから、そういう意味では「同類」というニュアンスの方がしっくりくる。
営業の人間は何百人も知っているけど、トッププレイヤ一になると数千万の年収をたたきだせる、外資生保のセールスマンは「安心感・頼りがいを演出する」ことにおいては、桁違いに上手い。気遣い、笑顔、トーク戦術。大富豪を顧客に持つような、トップのセールスマンとは何人も話したことがあるが、そこいらの営業が霞んでしまうほど、自身を魅力的な人間に振舞う。そういう普段の仕事のスタンスに、ちょっとアレンジを加えれば、女を抱くことなんかわけないということを、彼を通して学んだし、最初の頃、女性の前では、僕は彼の振る舞いを真似していた。それは所詮コピーキャットでしかなかったが、それなりに有効だった。
2年ぶりだった。彼は生保以外の金融事業に手をつけ、年収は30%も押し上げていた。会って5分後の告知。彼は褒められたがりで、自慢したがりだ。爽やかな見た目と、柔らかい話し方とは裏腹に、本音は、徹底的に金しか興味がない。おそらく苦手な人間もいるだろうが、こういうシンプルな価値観を、僕自身は嫌いではなかった。
「この2年間は遊んでた?」と僕が訊くと「いや、嫁さんが好きだから、なにかあったらと思うと怖くてね。あまり手を出してないよ」と彼はニコニコして答える。
あまり、ね。
「そっちは相変わらず?」
「今月は何もしていない」と囗に出した。他人に向けて言ったのは初めてだったから、我ながら驚いて、思わず繰り返してしまった。「まったく、ナンも、していない」
驚かれたが、本当なんだからしょうがない。
ナンパ師なら頷く人もいるだろうか、何百人もの女の子と会ったところで特段、面白い話が聞けるわけじゃない。昔は新鮮さもあって、女の子の話を楽しんで聞いていた。だけど繰り返すにつれ、少しずつ飽きてしまう。ほとんどの女の子は特別じゃない。ふつうの学生か、ふつうの事務OLか、販売員か、美容師か、エステティシャンか、看護師か、保育士か、受付嬢か、秘書か、主婦か、それらのうちのどれかで、そして、それらの仕事の愚痴と恋愛話の大半のパターンは聞いてしまった。もう一度、楽しみを見出すのは、今ちょっと面倒だ、と説明した。
「でも僕から見たところ、2年経っても、○○くんは一見、何も変わってないような気がするけど?」
「外見のことなら、よく言われる」
「それもあるけど」彼は、いつもニコニコしている。それが成功の秘訣だという。「今度、2人の女の子と、銀座でディナーを一緒にするんだけど、ひとりメンズを連れてきたかったんだよね。僕は既婚者だって相手に伝えちゃってるから、○○くんだったら、容姿もステータスも文句ないんだけど、どう? 来る?」
「行く」
即答した。彼は平均以上に可愛い子しか連れてこない。
「ほらね」
二コニコしながら言われた。
現場に着く前に、昔のことを思い出していた。言うなれば、かつて僕は、彼のウィングだった。とはいえ彼の目的はセックスではなく、保険の契約だったから、合コンだったり、ホームパーティーだったり行っても、彼は女性に手を出そうとはしなかった。むしろ【何もしない】ことで誠実さと安心感を与えて、その上で女性を外貨保険に誘っていた。
僕の見る限り、彼のやっていることは、いわばホストの色恋に近かった。もちろん全ての相手じゃない。かつて20代後半だった彼が、同年代の女に「セールスを仕掛ける方法」は、金融商品の信頼性なんかを説くより、色恋のほうが手っ取り早かったから、そうするのに躊躇なかったって感じだった。そうやって契約後、惚れて顧客になったブスが寄ってきても「お客だから出来ない」と手マンでなだめて、一方、可愛い子なら甘い言葉を重ねて抱いた。もっとも彼のステージがアッパーマーケット(富裕層)に移行してから、その手段は必要なくなったとも聞いていた。
僕たちはコンビではあったが、最終的な目的は別だったから、コンビであり続けられた。
女の子がどうとかいうより、久々そんな彼とゲームが出来ることが楽しみだった。
銀座のイタリアン・レストランにいたのは、エステティシャンと、古参商社のOL。どちらも28歳だという。自己紹介された時から予想がついていた通り、恋愛トークを振れば「出会いがない」と彼女たちは口を揃えた。特にエステティシャンが「周りが女性ばかりで若い男性と知り合う機会がない」なんて話は、もう2000回は聞き飽きた類のものだ。ベタにベタを重ねた身の上トーク。隣に座った彼だって、そうに違いないはずだが、相変わらず「そうなんだ! そんなキレイだから出会い多いと思ったけど、意外だし、もったいないよね!」と初めて聞いたように驚く。このあたりの演技は憎らしいぐらい堂に入ってる。
彼のやり口は、以前とあまり変わっていなかった。「彼氏はいるの?」→(いない)→「どれぐらいいないの?」→(○○ぐらい)→「そんなに!?」→(だって私かわいくないもん)OR(出会いないもん)→「僕が良い男いっぱい知ってるから紹介してあげるよ」というシナリオ。たぶん事前に、自分のステータスの高さを振りまいてるはずだから「こんな人が紹介するイイ男」と彼女たちは期待する。僕も、また彼に紹介された「イイ男」を演じる。そうやって自分の好感度を少しずつ高めていく。こうして文章に落とすと拍子抜けするぐらい簡単だが、そもそもトークに「台本」があるなんて彼女たちは気づかない。
ただ、同じ手口を続けてきた彼と、僕に明確に違ったものがあった。それは当時より、僕の経験値が高くなっているということだ。控えめに言って彼女たちは「撃てる」案件だった。特に、OLは「今年の春だが、部署が変わったのだが、仕事がヒマで、定時帰りで毎日がつまらない。だれかに誘って欲しい!」とか「明日も家事しかやることがない」と言うチャンスボールがドバドバ渡ってくる。
そのため話を聞きながら、相槌を打ちながら、僕は彼とは違うゴールへのシナリオを構築していた。だから「彼氏がいなくなって、どれぐらい?」のルート通りの質問に対して「もう2年ぐらいかな」とOLが応えるや否や、すかさず「2年も彼氏いないって、もったいないよね」と僕がインターセプトした。
「そうかな?」
彼女が聞き返す。
「そうだよ。でも、いないからって、その間、男の人とデートぐらいしたでしょ?」
「まぁ何度かあるけど、結局うまくいかないんだよね」
「そのうち、ひとりの人と最高何回デートをした?」
「4回……かな?」
「そんなにデートをしたら、絶対キスぐらいしたでしょ?」
慎重に入る。
「え~?」
照れてはいるが、嫌がる様子ではない。いける。
「どうなの? 仲が深まれば、それぐらい普通でしょ?」
「やっぱり、そういうものかな」
「そうだよ。もうアラサーなんだし、場合によっちゃセックスだって普通だと思」とまで言いかけた、その時。
舌打ちされた。僕にだけ聞こえるような音で。
誰だかわからなかった。だって笑顔が張り付いている奴が、急に舌打ちするなんて思わなかった。そのまま彼が「まぁそういうこともあるかもね」と僕が言いかけた台詞を無理やり話を締めた。まさか、こんなマイナスの対応がくるとは思わず、何故? と自分は狼狽してしまい、パス回しを止めた。この後の展開も同じだ。めげない僕が、ちょっとでもセックスと下ネタに触れようとする度、封殺された。ハンドテストすら横から叩かれる、という徹底ぶりだった。
女性ふたりがトイレに同時に立つや否や、僕は彼に噛み付いた。
「どういうことだよ。邪魔をしないでくれよ」
「それは、こっちの台詞だよ。あんなところで、下ネタなんか言って女の子が引いたらどうするんだよ」
「ちゃんと場はわきまえてるし、そうなったら、すぐやめるさ。そもそも30手前にもなって、1回や2回のセックスって単語で引く女なんていやしない」
「いるかもしれない」
聞き入れてもらえなかった。我慢して通常の恋愛トークだけにとどめた。まさかの反論に正直、立て直すには脳が追いついていけなかった。戦術がないわけではなかったが、なにか踏み込めば彼が邪魔をしてくると考えると、躊躇してしまい前にいけなかった。
そんな感じのまま会計の段になり、2万円以上の飲み代を、男子ふたりで分割して払うこととなった。ここまで、まったく面白い展開ではない。
だから、せめて確度の高そうなOLを、どうにかセパろうと目論んでいたにも関わらず、彼が彼女を独占して、さっさと放流させてしまった。僕も、彼女の友達のエステティシャンも、別れの言葉を言う機会さえ与えられなかった。残ったエステティシャンは、少しカタメだし、そもそも仕上げていなかった。終電前で狙うには無理があった。LINEゲだけして、別れた。
僕が狙っていたがゆえに、彼がOLをロックしていたのも、エステティシャンを残したのも、彼女を僕が仕留められないのも、すべて彼の計算によるものだ。
「持ち帰れなくて残念だったね」
それでも、ぬけぬけと彼は言う。
「やりたいように、やらせてもらえなかったからね」
こういう負け方は、はじめてだった。
「2年ぶりにあって、下ネタを言うようになったのが、君のやり方だっていうなら下品になったと思う。あんなやり方じゃ女の子はついてこないよ」
彼は、ニコニコしながら、自分はわかってるように言う。
僕は眉を歪めるだけだった。
それから2週間後、僕は件のOLとアポをした。最近の僕は個室居酒屋にも行かない。ギラもしない。触れさえしない。言葉だけで誘う。多少レトリックは必要だが、ストレートに「したい」と口にするだけで、ついてくる女性はいる。ナンパをはじめて、アポを繰り返して、僕が知ったことのひとつ。彼が言っていた「あんなやり方」は、ザクザクと相手に通じた。
当然のように北口に行った。進研ゼミの販促まんがみたいなもんだ。「この問題、チャレンジに出てたぞ」ってぐらいの知ってるパターンを、知ってる攻略法で、準即した。難をいえば、休憩ではなく、彼女が泊まりにこだわって、少々値が張ったことが失敗だったが、それは仕方がないと割り切るしかない。
女の子がスースー寝息を立てている横で、彼のことを思い出して「わかってないのは、君の方だったよ」と僕は、ようやく2週間ぶりに反論の言葉を口にした。
動物化する婚活女性
月曜の夜、ふとTVをつけたらビートたけしの「TVタックル」において「今どきの婚活女性」というテーマを行っていて、けっこう面白いなと思って観ていた。婚活については以前も書いたことがあるが、いち男性としての不快感を記す程度で終わっていたのに対し、番組自体は社会全体における「婚活という病」を冷静に取り出していたように思う。
以前も書いたが、婚活ブーム、というと、どちらかというとポジティブな響きさえするが、それは仕掛け側の企業が作り上げた幻想でしかなく、僕自身は婚活というのは「そうしなければならなくなった」社会の土壌というのを理解しつつも、やはり、それに乗った女性の多くに問題を抱えている点には目を背けずにはいられない。それは番組にも登場した「婚活」という言葉を作った白河桃子自身すら「こういう流行り方は求めていなかった」と以前どこかで述べていたし、やや現状を否定的に見ている面はあるように思う(参考)。
番組では、昔の女性は「3高」を求めていたが、今どきの女性は結婚する男性に「4低」を求めるようにシフトしていったのだと番組は言う。4低とは以下のような定義だ。
・【低姿勢】 |
たとえば、年収が高くても、会社経営だったりすると(婚活市場では)モテない、ということも往々にしてありえるという。
個人的な意見としては「謙虚で、一通り生活も行えて、安定した職業に就く男性」が何故、お小遣い化されても「お嫁さん」という負担を背負わなくてはいけないのか理解できなかった。負担という言い方に不快感を示す人もいるかもしれないけれど、よほど惚れていない限り「4低」の条件を満たす可能性のある男性が居たとして、わざわざ生活のグレードを落としたくはない、と考えるのが今の感性だと思う。
結局のところ、僕はこの「4低」に対して[男性に依存したい]という感情以外のものを見つけられずにいる。
そのうえで「では惚れさせるには、どうしたらいいか」というと、たとえば容姿など外見的要因があるけど、そういう綺麗な人はわざわざ婚活なんてしなくても男が寄ってくるだろうから対象外で、大抵の場合「いや私は、そんな美人じゃないし、年収もあるわけじゃないけど、優しいし、旦那さんに尽くすから!」という気持ち方面でアピールしていく可能性が一番濃そうだ。しかし、気持ちとか人柄なんて、ある程度、長期的な関係にならないと解らないものなのに「婚活」をやっている女性たちが、そういうものを望んでいるとは思えない(そもそも「結婚」という長期的な関係を得ることが目標だ)。それに「気持ち」とか「優しさ」を前面に押し出すのは「やる気だけはあります」という新人就活の面接アピールに似たものを感じる。
ちなみに番組では、そういう「婚活女性のための男性に誘われるマナー講座」というのも紹介していたが、座っている女性たちに対して「足を何度も組みかえると、男性はドキッとしますよ」と講師が説明したりしていて(おいおい、それって僕が10代の頃、ホットドッグプレスで読んだ「今夜はOK」の仕草じゃん)とげんなりした。マジレスすると、別にドキッとしないし、むしろ何度も組み替えたら「オマタかゆいのかな?」と思われるのが関の山だから、くれぐれも女性はやらないように。
そもそも「婚活」というのは「一生好きだよ」とか誓い合う為にするような、恋愛結婚とは異なり、「結婚」という共通の目的が持った男女同士が、さあ恋愛しましょう、ということになるから、実はプロセスが逆になるんだよな。恋愛結婚の場合は「好きになる ⇒ 相手の条件(年収・家庭環境)を知る」という段階になるから、多少の不備があっても受け入れていかなければいけないし、それこそ「旦那の給料が安いのよね」と愚痴を言っても続くことが平気であり得るんだけど、婚活から結婚をしようとすると「相手の条件に満足する ⇒ 好きになる」という流れになるから、得てしてパートナー探しに苦労する流れになってしまう。引っ越し物件だったら、それでいいかもしれないけれど人間相手ならそうもいかない。相手(男)も婚活中だと仮定するなら、お互いに同じことをしあってるので、単純に難易度は2乗に跳ね上がる。
また、番組に出演した婚活女性10人に対して「結婚する男性に、どれほどの年収を望みますか?」というアンケートをとったところ、8人以上が「600万円以上」を挙げていた。30歳男性の平均年収が430万円*1であることを考えると、相当に高いといえる。URLソースは見つけられなかったが、30代前半で600万以上のサラリーマンとなると、全体でも上位5%しかいなかったはずだ。それについて、彼女たちは現実をちゃんと理解しておらず、レッドオーシャンに飛び込もうとしている、と白河桃子は言う。
その現状について「婚活アナリスト」という、やや素性が怪しい肩書である松尾知枝が、このように説明する。
「今の女性って、なんでも最初から揃っているような、モデルルームのような、そういう理想を男性に求めてしまっているんですよね。でも結婚って本当はなんにもない、がらんとした部屋からひとつずつ家具を揃えて築き上げいくのが結婚なんですけど、今の女性はそういう想像力が欠落しているなと」
実際に「300万円以上」と控えめに挙げていた残る2人は「謙虚ですね」とマイクを向けられると「もちろん、このままでいいとは思ってはいないですよ。子どもも欲しいって考えると、旦那さんの出世も望んだうえで、今はこれぐらいでいい、というものです」といった内容を答えていた。
ここから先は僕の意見になるんだけど、高い条件を求めてしまう女性の心理は、おそらく2パターンあると思う。ひとつは、スペックが高くて、モテモテで、いろいろな男性から言い寄られて選べるから「より高い条件の男性」を求めるというのもあるけど、ここで紹介された婚活女性たちは、そうではなくて「相手のイメージが掴めないから条件だけ上がっていった」って感じもあるような気がする。ちゃんと相手と惹かれあって、満ち足りた恋愛をしてきたならば「条件」だけじゃ一生を共にはできない、と実感できそうなのに、と僕なんかは思うんだけど、それは彼女たちが良い恋愛をしてこなかったからなのか、愛だけじゃ飯が食えないと女性特有の現実を見る性なのかはわからない。
ただ白川桃子も「いまどきの女性は恋愛をするのがへ夕になっている」と言っていたから、あながち前者でも間違いではなさそうだ。
「今は男性も待ち受け派が増えている。そういう意味でも、女性から飛び込んでみるのは必要。【結婚をして苦難があったとしても、あなたと一緒だったらいいわ】というリスクに飛び込んできてくれる女性の覚悟は、男性にも魅力的に見える」
上の引用は、松尾知枝ほか番組の討論の内容をまとめたものだ。くしくも彼女たちが言ってきたことと、僕が以前のエントリーで女性が男性に飛び込まなかったことを「地蔵化」というナンパ用語にひっかけて述べてきた内容が重なるのは、おそらく偶然ではない。それについて専門家と意見が共通したことを、別に偉ぶりたいわけではなく、ふつうに現代の女性たちと接していたら、同じ結論に行き着くと思う。自分の口説きのレトリックすら正直、そんな相手の恋愛下手の隙をついたようなものが多いな、という自嘲もある。
白川さんの言う「いまどき」という括りが果たして正しいかは僕にはわからない。けれども番組に出演していた、男性の条件ばかりを追い求める婚活女性を見ていると、恋愛レベルが低いというより、なんだか動物みたいだな、というのが素直な感想だった。
何故そんなことを思ったかというと、みんなテレビで見たことがあると思うけど、肉食動物なんかは、好みのメスを獲得するためにオス同士で戦ったり、大きい獲物を狩ってきたり、鳥だったら羽を広げて大きく見せたりして、要は「俺は強いんだぞ」というアピールをする。そして、メスも遺伝子を後世に残すために、より強そうな方を選ぶ。
それで言うと、今の人間の強さって何かっていうと、やらしい話「金」なんだけど、高い安定性で、資源を連続で供給できる「公務員」とか「医者」を選ぼうとするあたりは「子孫繁栄」という結婚本来の目的として考えれば正しい。そんな今さら書くまでもない当たり前さに対して、全く反論はできないんだけど、しかし、なんだか自分の「気持ち」を置いて「今の条件だけ」で相手を選ぼうっていうセンスは正直、人間というより、やっぱり動物的だなと思う。
じゃあ人間的とは何かといわれれば、ひとつは先に書いたような男性との将来性を重視して選ぶような行為だろう。たとえば「年収1000万円の男」と今すぐ結婚するのが無理でも「10年後、年収1000万円になりそうな男」と一緒になることは、普通の女性でも充分に可能だ*2。むしろ「ダメな時でも一緒に居てくれた」と恩に着た、男は愛情を深めてくれさえするだろう。ちなみに「年収」を例に用いたのは数字というわかりやすさ以外の意味はなく「男性の将来性を見て選ぶ」という未来予測を込めた「戦略性のある婚活」を知恵をもって行うのであれば、少なくともそれは「動物」ではない。
その戦略については、婚活パーティーなんかに出席しても無駄だとか個人的には言いたいことは色々あるんだけど、こんなブログで誰得かわからない内容を書いてもな、と自覚してきたから割愛して、そろそろ終わろう。
ただまあ「気持ち」とか「フィーリング」という不確かなもので結婚を決められなかった人たちが、パートナーを見つけるために、より本能的になる、という行動心理は、ある意味では自然なことかもしれないな、と思いながら番組を観ていた。勢いで書いたのでオチは特にない。
*1:http://nensyu-labo.com/nendai_30.htm
*2:「それって、どんな男?」って訊かれると、パッと思い浮かぶのは、イソ弁とか、税理士事務所で、事務をしながら試験勉強している人だろうか。
さよならと、おかえり (c/w 田舎の達人)
電車の車窓から見える景色が、どんどん変わっていく。
高層ビルから住宅地へ。
住宅地から田園風景へ。
胸のなかの感情が、次第にかきたてられる。焦りのような。心細さのような。
「本当に、こんなところに住むの?」
言ってみた。
思わず。
その結果。
すごく、うんざりした顏。
別に田舎をディスってるわけじゃない。
生まれも育ちも東京の僕にとって、旅行ならともかく「ずっとここに住む」というのが、非現実に思えた。
だから落ち着かなくなってしまい、訊いてしまった。
それだけだよ。
僕の向かいの、うんざり顔が口を開いた。
「い・ま・さ・ら・?」
お・も・て・な・し、と同じイントネーションで返ってきた。
マンション。部屋中から新築特有の匂い。駅で出迎えてくれた不動産の人は笑顔。彼氏さんですか~、なんだか都会の男性って感じですね~、といったMP5のような言の葉の乱射を、僕は口角を上げただけでしか返せない。いつだって人見知りなんだ。クールとか言われることもあるけど、単に表情の変化に乏しいだけなんだ。
新築。/駅から6分。/5階建ての3階。/角部屋。/RC。/11畳のリビングと7畳の寝室の、1LDK。/ウォークインクローゼット。/ウォシュレット。/浴室乾燥機。/追い炊き。/独立洗面台。/カメラ付インターホン。/ディンプルキーのオートロック。
「これで家賃が?」
「6万円。管理費・共益費込み」
「‥・ありえない」
おまけに住宅補助で3万円支給されて、本人負担は実質3万円。倍率ドン。
「そういや車も持ってきたよね。表にある駐車場は?」
「あれは無料。家賃込み」
3倍率ドン。フルコンボだドン!
不動産屋は帰った。光GENGEがローラースケートを置いて去ったあの時のような厳かさをもって鍵を彼女に渡した。そしてダンボールまみれの部屋と、ふたりが残される。
これから自宅から2時間30分かけて、他人の引越しの手伝いだ。ワイルドだろぉ?
僕はダンボールを空けようとする。
「片付け、手伝うね」
「ありがとう」
「僕が、主に下着の片づけをするから、そっちは家電の配線をやればいいと思う」
「意味がわからない」
「下着っていうのは、主に局部を押さえる内側に着ける衣服のことだよ」
「そっちじゃない」
「いいから下着の入ったダンボールが、どれか教えてくれ」
蹴られた。
残念ながら、配役が逆になり、僕が家電の配線をやるはめになった。レコーダーに関しては、極右ソニー派である僕が、パナソニックのレコーダーのセッティングをする屈辱にあった件について、強く遺憾の意を表明したい。おまえは未だにGガイドというクソ番組表を使わないといけないやつか? デザインもダサすぎる。ソニーのXMBのあの機能美を見て、なにも感じなかったのか、と憤りながら、HDMI (「ひゃあっ!ダメえ!ママに言わないでえ!」の略)ケーブルをジャックインした。
配線に苦労はしなかったのだが「テレビ台の高さが前と微妙に違う」と4回もクレームを受けたせいで、その度に、ネジ締めによる高さ調整と、テレビを置く作業を毎度させられ、ようやく嬢王から了解を得たと同時にソファーに飛び込んだ。
「こら、休むな」
「休んでないです。暖めてるんです。ソファーを」
「豊臣秀吉みたいなこと言わないで」
「じゃあ、ソファーを体重をかけて、柔らかくしてる」
寝っ転がっていた僕に、彼女が馬乗りになってきた。
「あんたのお腹のほうが柔らかいじゃん」
「ひどいっ!!」
人権侵害だ。言葉の暴力だ。ドメスティック・バイオレンスジャック!
馬乗り状態から、いきなりキスされる。のべ30秒ぐらい。れろれろれろれろ。
「元気になった?」
なんて自信満々な女だ。おまえの唾液がついた唇を、僕の唇にくっつけた程度で、僕の気力が回復すると考えるとか、ちょっとおかしいンじゃないですかね? 病院いったほうがいいと思いますヨ。
「元気になったね」
握って確認される僕のギンギラギンにさりげなさ。
「しよう!」
「ダメ」
「なんで!!!?」
「したら、あなた絶対やる気なくすもの。ダンボール片付けた後でね」
立ち上がって、ソファーから腕を無理やり引っ張られる。OH! MY GOD。OH! MYコンブ。
結局、19時ぐらいまで片付けはかかった。彼女に言わせると、僕はなかなか優秀な助手らしい。だが、いろいろ細かい、という非難もあった。それは普段はてブのコメントでも良く言われてるよ、という余計な一言は控えた。
「夕飯は何がいい?『おまえ』は却下で」
前にそう言って、襲ったことを根に持たれていた。まったく小さい女だ。
「家じゃ無理でしょう?」
「そうだね、まだ、お皿は出し切ってないから。あそこしかないね」
あそこ = 駅前のファミレス。
「(あの店には)一度も行ったことない」
「まさか、うそでしょう? 全国どこにでもあるのに」
「ヴァージンを今夜ささげることにするよ」
「やかましいわ」
行ってみた帰り、感想を訊かれたので、僕はビルディの方が好きだと言い「あんなマズいファミレスを褒めるなんてどうかしてる」と僕のビルディ愛をディスってきたので、軽く口論になった。なぜ無くなったのか、未だにわからない。あれは、すかいらーくの失策だと思う。僕は一途なのだ。
「それにしても、本当に何もないな」
帰りながら思ったことを口にしてみた
「コンビニと、スーパーと、ドラッグストアは1軒しかないけど、あるよ。それで充分」
この3店舗は、どれも広いし、駐車場つきだった。きっと車がないと生活ができない街なのだろう。
「クリーニング屋さんも、ドラッグストアの奥にあったし」
「生活するには困らないね」
道幅も約2メートルは常にあるし、車も常に4車線だし、おまけに夜21時だというのに誰ともすれ違わない。
眠らない街で、ナンパ友達と酒を飲む夜ばかり過ごしているから、この「暗い夜」にどうしても慣れない。
「でも、君は普段、家から出ない子じゃない? テレビだけでヒマを潰すには厳しいよ。レンタルビデオ屋だってなかったし」
「レンタルビデオなんて必要ないよ。HuluとTSUTAYAに入会してるから、今じゃネットでドラマがすぐ見れるもん」
「そうか」
「Amazonがあるから、本も買えるし」
「そうか」
「遠い遠いって言ってたけど、快速に乗れれば、都内まで1時間で行けるし、そんな遠くないよ」
「そうだね」
「都会でなきゃいけないことなんて、考えてみたら、本当はないんじゃないの?」
「そうかもしれない」
「……本当に一緒に住まないの?」
ああ。やっぱり、それが言いたかったんだな、と思った。
「そりゃ無理だよ」
言えたのは、それだけ。
「なんで?」
黙った。
不穏な空気のまま帰った。
その後は、聞かなかったふりをして、過ごした。
真剣な口論になって泥沼化する前に、別の話題に切り替えて流すことに、僕たちは慣れていた。
しかし朝、ここを出る前に玄関で一応、最後の確認はした。
「もう私達、会えなくなるのかな?」
「難しくなったね」
「じゃこれで終わり?」
「かもね」
「あっさりしてるね」
「僕にだって反論はあるよ。『やりたい仕事がある』って言って、勝手に辞めて、こんなところに来たのは君じゃないか。それを僕についてきてほしいって望むのは」
「理解してるよ。ワガママなのは」
「ワガママを言われるのは嬉しいけど、ちょっと今回は叶えられない」
「うん」
「ときどき電話していい?」
「もちろん。ダメなわけがない」
そんな会話をして、玄関を出た。
こういう別れ方もある。
それから2週間後、宣言通り、彼女に電話をした。
「もしもし」
「もしもし」
「誰だかわかる? イケメンだよ」
「イケメンの知り合いは欲しいけど、残念だけど私にはいない」
「え? でも着信通…」
「い な い … … 」
自分でふっておいて死にたくなるパターンktkr。
「いま家?」
「うん。家だよ」
「そうかい。満喫してる? 新天地での生活」
「新天地とは違うけどねぇ。充実してるよ。おかあさんのゴハン、美味しいし」
「おかあさん? そっち来てるの?」
「そりゃいるでしょ? 実家なんだから」
はい?
「行ってなかったっけ?」絶対すっとぼけて、この台詞いったと思う。「私、結局、転職しなかったんだ」
要は、こういうことだ。そもそも彼女は、やりたい仕事があって、前の職場をやめて、田舎の会社に転職し(ようとし)た。けれども転職先の初日、判明したのは、彼女の希望とは全く異なる配属先だった。しかも仕事内容は、前職とあまり変わらないものだ。「話が違うじゃない。○○をやらせてくれるっていうから、わざわざ田舎にまで来たのに」と彼女は言ったし、その台詞のまま、現場の上司にも噛み付いた。人事課も努める上司は首を振った。君の希望していた課だが、今季は成績が芳しくないし、今は新人を雇う余裕もないそうだ。まずは経験を積んで、現場での信頼を得てから、その後で配属できるよう、また手配するから、というクソみたいな言い訳。別に書面を交わしたわけじゃないし、口約束でしかなかった。成績うんぬんは関係ない。最初からじゃないとしても、早い段階から知っていたはずだ。
あいつに騙された、と彼女は言った。それで初日で辞めてきたというのだ。
「私、急にフリーターになっちゃったよ。びっくりした」
いや、あなたは数日前の出来事でしょうけど、こっち知ったばかりですから!事実なう!
「実家って、どこだったっけ?」
「日暮里」
むちゃくちゃ近かった。
聞きたいことは、いっぱいあった。あの部屋どうするんだ? とか、なんでその事を教えてくれなかったんだ? とか、加速度的に質問がわきあがってはランダムに何を言おうかランキングは上下した。
だが、その1位となったものを音声化する前に彼女のほうが先手を出した。
「ねぇ、私、すごいヒマなんだけど。とりあえず」ゆったりした声。「今から会えない?」
もう一回遊べるドン!