タイガーナンパーカット

ナンパ、出会い、恋愛、性的嗜好。menonsoup@gmail.com

プライベート・ドクターストップ

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 この前、モスバーガーでフォカッチャを食べていたら、隣のテーブル席に、清楚系の女子大生みたいな2人組が座ってきて、おもむろに合コン帰りの反省会を始めた。日曜の夜23時といえば、そういう時間だった。女子Aが、ある男を気に入っていた様子に、女子Bが「あいつは遊び人そうだからヤメたほうが良いよ」と水を差すような言葉を返していた。その後も女子Aが「でもなぁ」と、なにか言葉を返すものの、女子Bが制する展開が続いた。しばらく僕の左耳には、そういう黄色い声の空間が広がっていた。

 

 女の子は勝手だと思う。遊んでいる男は否定するくせに、遊んでこなかった男は、つまらないと平気で切り捨てる。挙句の果てに「適度に女性と付き合ってきた男がいい」などと言う。そっちの適度なんか知らねーよ、と僕は思う。その、ちょうど良い小馴れた男性に対して、私だけを見て欲しいと願う。経験と純粋の両方を求めるがゆえの「適度」という言葉の使い方は、本当に便利だ。おたくが処女をありがたがるのと同じぐらいに。

 悪いとは思わない。僕も同じぐらい歪んでるから。ただ、それも自覚しているかどうかの違いしかなくて。

 

 食べ終わった後、少しの間、シガーカッターを右手で弄びながら躊躇していたんだけど、彼女たちの話に煙で邪魔するのも迷惑かと思い、店を出た。

 家には帰りたくなかった。

 

「もしもし。○○くん?」

「うん。そう。いま、うち?」

「そうだけど、どうしたの?」

「今夜そっち行っていい?」

「それはいいけど……今から?」

 応える代わりに、インターフォンを押した。

 

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「もっと早く言ってくれたら、迎えに行ったのに」

 会うのは2か月ぶりだった。年を明ける時も連絡すらしなかった。

 彼女との関係は、なんて言えばいいんだろうな? ナンパ用語でいえば一応、既セクということになるんだろう。この「一応」というのは1年以上前、とあるホームパーティーで知り合って、2、3回会ったんだけど、ある日の夜に、ふたりともベロベロに酔っぱらって、なんとなくセックスしようかって流れで始めたんだけど、途中からテレ臭くなってやめてしまったからだ。挿入以上射精未満の関係。それ以降、たまに僕が思いつきで、こうやって彼女のマンションに襲撃してるわけだけど、あれからセックスは一回もしていない。なんか、しないほうが心地いい関係だった。

 外は寒かったから、ホットカーペットのぬくもりが心地よかった。紅茶を入れてくれたので、一緒に飲んだ。

「なにを観てるの?」静止しているTVの映像を指さす。

「録画してたダウンタウン。笑わないやつ」

「え?まだ観てなかったの、それ?」

「だって忙しいんだもん。近いうち試験もあるし」

 大学医は、今日も忙しい印象しかなかった。

 

「なんで今日、来たの? しかも、いきなりって小学生じゃないんだから」

「え? ああ、なんとなく」

「どうせ他の女にフラれて、仕方なく来たんでしょう?」

「他の女なんていないよ」

「はいはい」

 そのあと30分ぐらい一緒にTVを観た。眠くなった。風呂に入ってなかったから、ベッドに入るわけにもいかず、彼女に膝枕してもらった。僕が眼を閉じている間、彼女は僕の髪をなで続けていた。

「今夜は泊っていくでしょう?」

「もう帰れないし」

「それで明日は、どこの女と会うつもりなの?」優しい声だった。

「会わないよ~」ダダこねルーティーン。「明日は、お仕事です」

 19時半から、26歳の保育士にギラつくお仕事です。どうしようもないです。

 髪をなでられながら、その柔らかな手つきを通じて、僕は彼女が、僕のことを悪く思っていないことを察していた。

 きっと、その気になって一歩、踏み出すだけで、彼女は(また)僕を受け入れてくれるだろう。

 こうやって膝枕させてくれる女の子がいて、甘えることができるのに、どうして僕は「彼女だけ」じゃダメなんだろうな。どこの女の子に会っても、こうやって優しくされる度、いつも思う。この子に決めてしまえばいいのに、いつも選ばない。いつだって選ばずに別を探そうとする。

 たぶん、それは歪んでいるからだ。だが、それを自覚しても、どうしてもやめられない。

 

 この日も、ふたり同じベッドで寝た。身体をくっつけて。寝間着から伝わる体温を感じて。 

 セックスはしなかった。

 

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 彼女が早番だというので、僕も早い時間に起こされた。リビングで眠気をこらえながら、テレビを観ていたら、牛乳が入ったコップを渡された。「ありがとう」と僕は言った。

「あのね、お願いがあるんだけど」突然だった。「もう二度と、ここには来ないで欲しいんだ」

 え? って感じで振り返ったら、向こうの目が本気だった。

「私、そろそろ結婚したいし、そう思える人を見つけていきたいの」

 台本の台詞を読むかのように、すらっと言った。薄い笑み。初めて会った時から、ポーカーフェイスは彼女の得意技だった。がんの告知だって泣きそうな家族の前で表情を崩さず行うことができる、と以前、語っていた。知ってはいても、重みはあった。

 あなたは優しいけど、気まぐれだし、落ち着く気なんてないんでしょ? と言われて、確か自分は「そうだからしょうがない」という返答をしたと思う。

 

 すると彼女は、おおむねにおいて次のようなことを語った。

 初めて会った時から、チャラくて、遊んでる人だとは解っていた。私は遊び人ばかり好きになってしまう悪い癖があって、一度、ふつうの男と付き合ってみたけれど、ぜんぜん惹かれなくて、すぐに別れてしまった。だから、あなたと一緒に居る時、遊んでいても仕方がない、でも受け入れてみようと思った。そうして、あなたのことを受け入れたら、いつか私のことを選んでくれるのではないかと待っていた、と言った。男を変えるのは、いつだって女だというなら、あなたを、こっちに向かせたかった。でも、やっぱり本当に付き合ったら、あなたが他の女と遊んでいるのを許せないと思うし、この先、私も待つのは無理なようだから、もう会わないで欲しい。あと、こんなことを言ってるけど、別に殊勝な女ってわけじゃないし、この前も、お持ち帰りとかされてるから全然、平気よ、と付け加えてきた。

 

 なんとなく彼女の性格からして、最後の余計な台詞は、僕に心配をかけたくないが為のフェイクなんじゃないかとも訝ったのだが、追及するほど進展した仲ではない僕は「そっか」と呟くだけに留めた。そして最寄りの駅まで、一緒に手を繋いで、別れた。

 

 女の子は勝手だと思う。遊んでいる男は否定するくせに、遊んでこなかった男は、つまらないと平気で切り捨てる。

 

 でも遊んでる男を受け入れようと無理をするぐらいなら、僕のことなんか明日にも忘れてくれていいんだけどね。 

 たとえば、こんなふうに。

「まずセックスする」という選択肢について:今年の総括

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  旅先の温泉宿にいる。ついさっきまで海から流れる、ゆったりとしたさざ波の音を聴きながら、窓の外を見ていた。冬の青く澄んだ空の景色を見ながら、今年末は静かに過ごそうと決めていた。

 

 こうしていると自分が数日前までクラブにいたことなんて嘘みたいだと思う。六本木。激しい光彩の下で踊る女の子の集団のなかに突っ込んでは、そのひとりに触れ、騒音のなかで耳打ちして、時に手を引っ張って連れ出し、フロアの隅っこで、やや強引なディーブキスをしていた僕は、本当に「僕」だったのだろうか。

 

 以前から遊び人ではあったが、春からナンパを始めた。

 経緯については、このブログに書いてきた通りだ。今年の前半はストリートで。秋頃からはクラブで。「結果」から挙げると例年よりも数人、増えていた。遊び方を大幅に変えたので、減ると予想していたが意外だった。相手の内訳も少し変わった。以前はアラサー層の社会人ばかりだったが、今年は25歳の第2新卒、また、それよりも前の若い子が混じり始めた。僕は、むしろ数よりも、この内訳の変化を面白いと感じていて、何故このような結果になったのだろうと行きの電車のなかでは、そのことばかり考えていた。

 とはいえ、多くのナンパ師が自身のブログで語ってきたことを、僕もまた繰り返すけれど、ナンパをしたところで自分の何かが変わるわけではなかった。僕は、いつもの僕だった。ただひとつ今年、変わったものがあるとすれば、女性と接するとき「まずセックスする」という選択肢のスイッチを持ったことだけだ。

 

 今日書こうと考えているのは、その選択肢についてだ。  

 女性に遊びなれた人間は簡単に言うと「この女性はセックスできそうか、そうではないか」というアンテナを皆持っている。「即系」という分類を用いるナンパ師とは、つまりそのアンテナの感度を高めようと日々、女性と接しながら自己研鑚している人種と言っていいような気がする。もっとも、それは全ての女性に対してではない。自分が好みの女性を見た時、あるいは狩場についた時、そのスイッチは押されるものだ。

 僕がやろうとしたのは、そのアンテナの感度を高めようとする行為だった気がする。

 

 もちろん、結局これが最終的に「ヤリ目」のための研鑚である面については、ツッコまれる前に「そうだよ」と開き直っておく。前から書いてるけど、ここは結局、下品なブログだから、そういうことしか書いてない。ただ、これも以前のエントリーにも書いたんだけど、そういう視点を得たいというすべての人間が、女性の身体 だけ を目的として動いているわけではないことも再度、書いておく。

 

 そのうえで「じゃあ、そのスイッチを持つことに意味があるのか」と言う人の存在を僕は予想しているんだけど、各々それは必要だと思ってるから、やっているだけ、としか答えようがない。たとえば、プロになるつもりもないのにボクシングを習う人に「日常で人を殴ったりしないのに何故やるんですか?」と質問する人はいない。彼らは自己防衛する程度の強さがあればいい、とか、幼い頃、いじめられたトラウマの反動といった理由を挙げたりしながらも、結局は好きだから、で終わる話とはいえ、減量やトレーニングといった傍目から理解されない苦痛も含めて、過程として楽しむ。それは人を殴る技術を磨くためだ。

 社会的行為として、ナンパは決して認知されていないが、それに近いなと思う。

 

 そのために、どうしても異性としての女の子は必要だし、必ずしも楽しい結果とさせてあげられないことは知ってる。特にナンパを始める前も含めて、今まで僕はブログで、あたかも女の子の気持ちを理解したようなことを偉そうに書いてきたけど、時に女の子を不快にさせてしまうような行動を、何度かしてしまったことは正直に告白しないといけない。特に、ギラや、セックス打診は、ある種、相手の心への「踏み込み」みたいなところがあるから、タイミングを誤ると、たとえ相手をちゃんと見ようと心がけていても、失敗はあった。

 誰かを傷つけてないと、誰にも優しくできない。

 

 それゆえ相手への拒絶を受けるたび「僕は何故こんなことをやっているのだろう」と落ち込むことがある。帰って「そんな人だとは思わなかった」という言葉を思い出し、ベッドに倒れて、枕にパンチする夜もあった。しかし悩んでも仕方がない。僕は、彼女にとって単なる「いい人」で終わりたくなかったのだ。「いい人」なんて「誰でもない」って言われてるのと同じだ。特別であろうとするには、どこかで、その子の周囲の人間と違う行為をしなきゃいけない。

 

 今年は「即」を経験して以降、そのアンテナが少し狂ってしまい、以前なら慎重に進めていたような、まだIOIを得られない相手にも無理な打診をしてしまったことが何度かあった。勢いに駆られ、相手を見れていなかった。それは僕の反省としてある。今一度、冷静にならないといけない。

 

 ただ、こんな悔みを繰り返したからといって、過去の「遊ばなかった頃の自分」に戻りたいか、と自問するが、今もなお、そんなことはないと、はっきり言える。

 

 合コンで出会った3~4人のなかから「とりあえず良かった」って子とメールを繰り返し、会ってみたけど(好みかな? そうじゃないかな?)と優柔不断に悩み、手も繋がないデートと、酒の席に、男だからと意味もなく全部おごって「じゃあねバイバイ」で別れて、そんな紳士ぶった自分に疲れて、ため息とともに家に帰って、寝る前に、吉沢明歩のAVでも観て、マスをかくような、しょーもない一日を送るのであれば「まずはセックスする」という観点を持って過ごすほうが、よっぽど有意義じゃないかと僕は思う。

 さっきの「そのスイッチを持つことに意味があるのか?」という質問に対する答えがあるとすれば、今の僕に出せる暫定的な答えはそれだ。

 

 もちろん、こういう目的は、もし女性が読めば怪訝な目をされることはわかってる。でも、恋愛って互いの心を寄せ合う行為だから、大人になればなるほど、セックスよりも普通に「付き合う」ほうが、ずっと難しくなっていくような気がする。

 

 若いころのほうが相手に飛び込めたのに、大人になるにつれ臆病になるから、付き合う相手を時間をかけて見極めたくなるけど、しかし酒の勢いでワンナイトラブはできちゃう(または経験した)みたいな女性は、僕の周囲には沢山いたし、それは多分、普通なんだと思う。

 

 しかし「普通」というのと、それが「正しい」というのは、また別の話だ。僕の言った「スイッチ」も、それと同じものとして存在している。だから持つべきだ、とは今後も言えない。けれども、下心を隠して、なにもできなかった昔より、いかに下心を丁寧に通すか、というほうが、僕には心地のいい生き方だなと思っただけなんだ。そんな気持ちで僕はブログも女遊びもやってる。

 

 おそらく僕は来年も、このスイッチを押したまま遊ぶと思う。さいわい仲良くしてくれる人もできたし。それでも、傍目には、きっと僕が下手なダンスを踊ってるようにしか見えないんだろうな。そう見えた人には恥ずかしいから来年は、このブログを読まないでほしいよ。

 

個人的な体験による街コン引退宣言

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 興味本位で4回も参加してしまった街コンだけど、そろそろ引退しようと思う。もはや言い訳でしかないけれど、当初1回で行くのは辞めようと考えていた。にも関わらず、その1回で、たまたま出来た「街コン友達」のような存在が、今年の春から、今に至るまで続くとは思ってもみなかった。彼らとの縁を保ちたいがため、僕は参加し続けていたのかもしれない。

 僕の「街コン友達」は3人いる。彼らは「かわいい女の子と知り合いたい」「彼女を作りたい」というイベント主旨通りの純粋な目的で活動している、という点だけは、あらかじめ先に断っておく(僕とは違う、ということを)。

 

 きっかけは先月、熱の篭った電話の誘いからだった。

「急な話なんですけど今夜、男女、各200人同士の参加で、男子枠が余っていて、女子はキャンセル待ちだそうです。恵比寿のオシャレな女の子と、いっぱい知り合えるチャンスだと思いませんか?」

 話を聞いて、なにが「チャンス」なんだろう、と思った。恵比寿なんて単なる開催場所でしかない。向こうだって「恵比寿に住む男と知り合えるかも」と勘違いした、千葉の田舎娘が来る可能性だって充分にあるだろう、と千葉県民の彼に冷静にツッコんだうえで、結局は参加OKと返答した。要するに僕もヒマだった。後から参加費を聞き、少し後悔したが、今さら引けなかったので、気持ちを切り替えることにした。

 男の枠が余ってるのに、女がキャンセル待ち? そんなことが有り得るのか? という疑問は片隅にあったものの、なにせ200人だ。そこまで大人数が来れば、かわいい子もいるだろう、と夜に向けて、気持ちは高揚した。

 

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  しかし3時間にも及ぶ、街コンの終了後、僕の携帯に登録された番号は、たったの4件だった。参加費というコストを考えると、最低その倍は番ゲしておきたかった。

 あらかじめ決めていたサンマルクに、僕ら4人が集合して、話を聞いたところ、彼らも似た戦果を応えていた。無論かなり厳選していたとはいえ、さすがに話がおかしいと、僕は薄々考えはじめていた。

 

 少なすぎたのだ。女子の数が。

 

 そもそも今回は、男女合わせて400人参加という話で、しかも女性はキャンセル待ちだと言うなら、少なく見積もっても、男女全体で300人ぐらいは集まっていると見てもいいはずだった。

 それなのに開催側が指定したのは、3つの居酒屋を貸し切ったのみだった。しかも3店舗とも行ったが、50人も入れば満員になるぐらい、小さい店だ。目算でしかないとはいえ、それでも200人も入るのは無理だと確信できた。

 さらにいえば男女比も、さほどあったようには見えなかった。下手をすれば同じぐらいだ。

「どういうことなんだろう?」

 僕は言った。アイスコーヒーにガムシロップを投下しても、苦みが消えなかった。

「それでも多かったですよ。それに3時間という長丁場で、ゆっくり相手を見定められたじゃないですか」

 ひとりが言う。それでも多い? そうではない。数は簡単に無視できない。

 街コンに参加してみるとわかるが、確実に女性側には「やる気のない女」というのがいる。

 たとえば女性4人組で参加した場合がそうだ。街コンは基本2人コンビで移動する。だから4人の場合、2人ずつに分かれる。賭けてもいいが、この4人はまず確実に全員「彼氏が欲しい」とか「男友達が欲しい」と考えてはいない。だいたい2人が乗り気で、残りの2人が付き合いで参加していることが多い。そこで「乗り気組」と「やる気なし組」に分かれる。この「付き合い」参加は、女性特有の連帯意識ゆえだ。

 もっとも、そんな女性からも好意をもぎ取れるほど実力がある男なら、この文章を読んで鼻で笑うところだろうが、残念ながら僕の実力は高くなかった。加えて、僕自身の女性の好みだってある。その選別の結果が4つしかない。

 

 だが、これは実力の問題だけではないと思った。流れに納得できなかった。とはいえ憤っても仕方がない。たまにはハズレもある。すでに会の終了から1時間以上は、ゆうに経っていたし、ひとまず我々は帰ることにした。

 

 その帰り際、恵比寿の駅前で、友達のヒトシが「あ」と指差した。

 

 路上に、ふたりの女の子がいた。

  ひとりは秋元才加に似た顔だちで、大人っぽい服装。もうひとりは丸くてかわいい系だった。

 

 ヒトシが指差した理由は、秋元才加のほうが好みだったんだけど、いつも他の男と話していたから割って入れなかったっていう内容だった。確かに彼女たちの手首には、参加者の証であるリストバンドが着けられたままだった。

 彼女たちは駅前で立っているだけで、動こうとする様子がなかった。

「だったら声をかければいいじゃん」

 ヒトシは顏は普通だけど、僕の3倍はトークカがある。おもしろノリ系だ。

「え? い…行きますか?」

 だけど、その3倍ビビりだ。初対面の人に話しかけることができない。

 

「すみません。今夜の街コン参加されてましたか?」

 すったもんだあって結局、僕が話しかけた。

「あ、はい」

「楽しかったですね。イイ人いましたか~?」

「いや~どうなんでしょ~」

「ところで、ここで、おふたりは何をしてたんですか? 」

「はい。ちょっと…友達を待ってます」

 ふたりいる女子のなかで、秋元才加のほうがリーダーらしく僕の相手をしてくれた。コンサバティブな恰好をしていて、大人っぽいタイプ。5分ぐらい会話をしたがオープンする気配がない。僕には無理だと思って、ヒトシを呼んだ。

 ヒトシが来たら場の雰囲気が変わった。彼は「今日は恵比寿に来る前に、仕事で(※イケメン俳優)に会ったが、本当にカッコ良いと思っていたところ、自分は江頭2:50にしか似ていない、と職場の同僚に言われて、くやしい」というエピソードを、さりげなく「ガッペムカつく」のポーズをして話すことで、僕たちに「本人ノリノリじゃん」とツッコませるという、コントを瞬時に作った。その後もネタ話の投下して、女の子はドッカンドッカン笑った。完全にオープンした、と思った。

 そうして場を温めてからの「また今度飲みたいから連絡先交換しましょう」とヒトシの誘い。僕個人のストリートでの感覚でも8割、番ゲできる流れだった。ましてや「お互い街コン帰り」という状況だ。現に、丸い子のほうは、既に左手にスマホを持っていた。

 もうひと押しだ、と思ったが、

「いや、それはイヤですね」

 秋元才加が能面のような表情で断った。鞄を持った手はピクリとも動かなかった。

 男性陣は、みんな驚いたはずだ。ここで崩れない、なんてあるのか。

 たかが番号だぞ? ここまで腹抱えて笑って、番号すらダメってどういうことだ? 理解できなかった。

「わかりました」

 一旦引いた。悔しかったのもあったと思う。

 笑わせてダメなら、詰めることしか、僕には思いつかなかった。

「それは僕たちに番号は教えてもらえないし、もう会う気もないってことですよね?」

「そうですね」

 ばつが悪そうなそぶりすらなかった。きっと街で配られるティッシュを断る時も、彼女は、こんな表情なのだろう。

「了解です。じゃ諦めます。でも最後に、ひとつだけ教えてもらっていいですか?」

「いいですよ」

「今日、街コン中、何人の男性と番号を交換したんですか?」

「4人です」

「では、その4人と僕たちで何が違うんでしょうか? その人たちも参加者だったし、僕たちも参加していました。条件は五分のはずです。あえていうと時間帯しか違いません」

「そうですね」

「そんなに僕たち、悪い人間に見えますか?」

「いいえ、とんでもない。面白かったです。笑いました」

「でも時間帯と場所が変わっただけで、あなたと友達になれるチャンスはなくなるものなんですか?」

「そうです」

 はっきり答えられた。

「お金を払った『街コン』という会場でなら、知らない男と話してもいいと思えるのに、なぜ一歩でも外に出たら、さっきまで参加者だった人と交流を結びたくない、なんて思うんでしょうか?」

「さあ? どうしてですかねぇ?」

 はぐらかされて、一瞬、頭に血が上った。しかし、そもそも僕のワガママなのだ。

 ひとつだけ分かったのは、僕には、この女性が理解できない、ということだ。

「了解です。ありがとうございました」完敗だった。

 顔をあげるや否や、さっさと駅に向き直って「帰ろう」と言った。

 

「どうだった?」

 街コン友達のシンゴが訊いた。

「いや、ダメだった」

 ヒトシは一度は駅の改札をくぐったが、やっぱり諦めきれないと、秋元才加に特攻していた。「ガッツありますね」と彼女は言ったらしい。そこだけは僕も彼女に同感だった。

「なぜダメだったんだろう?」

 そうヒトシは言って、しばらく頭を抱えたが、ふと急に大声を出した。

「あ、でも、俺が去る前に、さっき彼女と幹事が会っていたの見た!」

 天啓でも思いついたかのような声だった。

「どういうことだ?」とシンゴ。

「そうだよ! 今日、最初に『開始の挨拶』をしてた、おっさんいたじゃん。あいつ幹事だろう? 道理で見覚えあるなと思ったんだ」

 僕たちは各々の反応で同意した。自称はしていなかったが、挨拶をした以上、開催者側であることは間違いない。

「俺、去り際に、後ろ振り返ったら、チラッと見えたんだよ。 あいつと彼女が、めっちゃ笑って話していたのを!」

 ヒトシは天啓のあと、仮説を語った。

 要はこういうことだ。街コンが終わった後も、彼女たちが待っていたのは、友達ではなく、幹事だったのだ。なぜ、幹事と、彼女たちが仲良く話していたか? 彼女たちはサクラだったのだ。女の子のキャンセル待ちなんて嘘だったのだ。表向き、そういう盛況のふりをして男子の参加を煽る。その目的は、女子よりも2倍以上もの高額な男子の参加費を回収すること。

 つまり、僕たちはサクラだとわからず、「仕事後」の彼女たちに声をかけていた…?

 ばかみたいに?

  そうであれば、我々の今回の疑念も一応の説明もついた。事前の「女性側のキャンセル待ち」というバランス比。/実際の参加人数の少なさ、男女比率とのフェイク。/女の子たちが、あれほどオープンしていたのに、番号交換に応じない理由。/彼女と幹事が談笑していたという理由。

 僕は熱を帯びるヒトシの言葉を聞いていた。

 真実を突き止めたわけじゃない。そもそも根拠が乏しい。

 所詮は被害者意識かもしれない。いや、そっちのほうが遥か現実味がある。

 ちゃんと開催もされた。だから、ぼったくられたワケじゃない。

 そんなことはわかってる。すべて、わかってる。

 でも。

 でも。

 でも。

 

「○○さん」ヒトシが僕を呼んだ。「ナンパ教えてくれませんか」

 

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 その後、ヒトシは渋谷で、僕から簡単なレクチャーを受け、終電まで声掛けした。他のふたりは帰った。僕は酔ってはいたが缶コーヒーを片手に、ヒトシの半ばやけくそぶりを見ていた。やけくそだと感じたのは、ふだん彼の好みではないような容姿の子にも特攻していたからだ。ついでに言うと、なにか余裕のなさも印象に残った。

 結局、終電までの30分、1番ゲも彼はできなかった。「とりあえず、あがきました」ヒトシは最後にそういった。

 

 ナンパをするにも理由はある。しかし誰かの土俵の上で女の子に会おうとすると、どうしてもこういうことはあると思う。僕は「市場の倫理」を否定しない。業者も否定しない。つくづく女の子を得るって戦いなんだなと思う。きっと女の子にはわかってもらえないかもしれないけれど、僕たちには個人的な戦いがある。

 

 だけど傷つくなら、誰かが仕掛けた不意打ちなんかより、自分で覚悟して受けるもののほうがいい。

 

 この前のヒトシの声かけは、そんな感じだった。