タイガーナンパーカット

ナンパ、出会い、恋愛、性的嗜好。menonsoup@gmail.com

プライベート・ドクターストップ

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 この前、モスバーガーでフォカッチャを食べていたら、隣のテーブル席に、清楚系の女子大生みたいな2人組が座ってきて、おもむろに合コン帰りの反省会を始めた。日曜の夜23時といえば、そういう時間だった。女子Aが、ある男を気に入っていた様子に、女子Bが「あいつは遊び人そうだからヤメたほうが良いよ」と水を差すような言葉を返していた。その後も女子Aが「でもなぁ」と、なにか言葉を返すものの、女子Bが制する展開が続いた。しばらく僕の左耳には、そういう黄色い声の空間が広がっていた。

 

 女の子は勝手だと思う。遊んでいる男は否定するくせに、遊んでこなかった男は、つまらないと平気で切り捨てる。挙句の果てに「適度に女性と付き合ってきた男がいい」などと言う。そっちの適度なんか知らねーよ、と僕は思う。その、ちょうど良い小馴れた男性に対して、私だけを見て欲しいと願う。経験と純粋の両方を求めるがゆえの「適度」という言葉の使い方は、本当に便利だ。おたくが処女をありがたがるのと同じぐらいに。

 悪いとは思わない。僕も同じぐらい歪んでるから。ただ、それも自覚しているかどうかの違いしかなくて。

 

 食べ終わった後、少しの間、シガーカッターを右手で弄びながら躊躇していたんだけど、彼女たちの話に煙で邪魔するのも迷惑かと思い、店を出た。

 家には帰りたくなかった。

 

「もしもし。○○くん?」

「うん。そう。いま、うち?」

「そうだけど、どうしたの?」

「今夜そっち行っていい?」

「それはいいけど……今から?」

 応える代わりに、インターフォンを押した。

 

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「もっと早く言ってくれたら、迎えに行ったのに」

 会うのは2か月ぶりだった。年を明ける時も連絡すらしなかった。

 彼女との関係は、なんて言えばいいんだろうな? ナンパ用語でいえば一応、既セクということになるんだろう。この「一応」というのは1年以上前、とあるホームパーティーで知り合って、2、3回会ったんだけど、ある日の夜に、ふたりともベロベロに酔っぱらって、なんとなくセックスしようかって流れで始めたんだけど、途中からテレ臭くなってやめてしまったからだ。挿入以上射精未満の関係。それ以降、たまに僕が思いつきで、こうやって彼女のマンションに襲撃してるわけだけど、あれからセックスは一回もしていない。なんか、しないほうが心地いい関係だった。

 外は寒かったから、ホットカーペットのぬくもりが心地よかった。紅茶を入れてくれたので、一緒に飲んだ。

「なにを観てるの?」静止しているTVの映像を指さす。

「録画してたダウンタウン。笑わないやつ」

「え?まだ観てなかったの、それ?」

「だって忙しいんだもん。近いうち試験もあるし」

 大学医は、今日も忙しい印象しかなかった。

 

「なんで今日、来たの? しかも、いきなりって小学生じゃないんだから」

「え? ああ、なんとなく」

「どうせ他の女にフラれて、仕方なく来たんでしょう?」

「他の女なんていないよ」

「はいはい」

 そのあと30分ぐらい一緒にTVを観た。眠くなった。風呂に入ってなかったから、ベッドに入るわけにもいかず、彼女に膝枕してもらった。僕が眼を閉じている間、彼女は僕の髪をなで続けていた。

「今夜は泊っていくでしょう?」

「もう帰れないし」

「それで明日は、どこの女と会うつもりなの?」優しい声だった。

「会わないよ~」ダダこねルーティーン。「明日は、お仕事です」

 19時半から、26歳の保育士にギラつくお仕事です。どうしようもないです。

 髪をなでられながら、その柔らかな手つきを通じて、僕は彼女が、僕のことを悪く思っていないことを察していた。

 きっと、その気になって一歩、踏み出すだけで、彼女は(また)僕を受け入れてくれるだろう。

 こうやって膝枕させてくれる女の子がいて、甘えることができるのに、どうして僕は「彼女だけ」じゃダメなんだろうな。どこの女の子に会っても、こうやって優しくされる度、いつも思う。この子に決めてしまえばいいのに、いつも選ばない。いつだって選ばずに別を探そうとする。

 たぶん、それは歪んでいるからだ。だが、それを自覚しても、どうしてもやめられない。

 

 この日も、ふたり同じベッドで寝た。身体をくっつけて。寝間着から伝わる体温を感じて。 

 セックスはしなかった。

 

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 彼女が早番だというので、僕も早い時間に起こされた。リビングで眠気をこらえながら、テレビを観ていたら、牛乳が入ったコップを渡された。「ありがとう」と僕は言った。

「あのね、お願いがあるんだけど」突然だった。「もう二度と、ここには来ないで欲しいんだ」

 え? って感じで振り返ったら、向こうの目が本気だった。

「私、そろそろ結婚したいし、そう思える人を見つけていきたいの」

 台本の台詞を読むかのように、すらっと言った。薄い笑み。初めて会った時から、ポーカーフェイスは彼女の得意技だった。がんの告知だって泣きそうな家族の前で表情を崩さず行うことができる、と以前、語っていた。知ってはいても、重みはあった。

 あなたは優しいけど、気まぐれだし、落ち着く気なんてないんでしょ? と言われて、確か自分は「そうだからしょうがない」という返答をしたと思う。

 

 すると彼女は、おおむねにおいて次のようなことを語った。

 初めて会った時から、チャラくて、遊んでる人だとは解っていた。私は遊び人ばかり好きになってしまう悪い癖があって、一度、ふつうの男と付き合ってみたけれど、ぜんぜん惹かれなくて、すぐに別れてしまった。だから、あなたと一緒に居る時、遊んでいても仕方がない、でも受け入れてみようと思った。そうして、あなたのことを受け入れたら、いつか私のことを選んでくれるのではないかと待っていた、と言った。男を変えるのは、いつだって女だというなら、あなたを、こっちに向かせたかった。でも、やっぱり本当に付き合ったら、あなたが他の女と遊んでいるのを許せないと思うし、この先、私も待つのは無理なようだから、もう会わないで欲しい。あと、こんなことを言ってるけど、別に殊勝な女ってわけじゃないし、この前も、お持ち帰りとかされてるから全然、平気よ、と付け加えてきた。

 

 なんとなく彼女の性格からして、最後の余計な台詞は、僕に心配をかけたくないが為のフェイクなんじゃないかとも訝ったのだが、追及するほど進展した仲ではない僕は「そっか」と呟くだけに留めた。そして最寄りの駅まで、一緒に手を繋いで、別れた。

 

 女の子は勝手だと思う。遊んでいる男は否定するくせに、遊んでこなかった男は、つまらないと平気で切り捨てる。

 

 でも遊んでる男を受け入れようと無理をするぐらいなら、僕のことなんか明日にも忘れてくれていいんだけどね。 

 たとえば、こんなふうに。