タイガーナンパーカット

ナンパ、出会い、恋愛、性的嗜好。menonsoup@gmail.com

一方その頃、渋谷では僕が恋愛メンターを演じていた

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「何にしたの? それビール?」

「はい。リアルエールです」

「ふつうのビールじゃないの?」

「よくわからないですけど飲みやすいんですよ。先輩も飲んでみます?」

「いや、いいよ。これを飲んだら、次それにしてみるから。それより先輩ってやめろ(笑)僕たち、同じ会社でもなんでもない繋がりじゃん。友達だよ」

「でも年上ですし。それに、あのときのアドバイスで彼女ができたんで。女ゴコロの先輩です」

「思ったこと言っただけで、ナンもしてないんだけどな…」

「先輩のおかげで27歳にして、初めての彼女ができました」

「良かったね。ちゃんとイチャイチャしてる?」

「それが……えっと、2週間前、別れました」

「えっ!? なんで! まだ2か月ぐらいじゃん」

「短かったですね」

「短すぎるよ。文化祭の高校生か」

「向こうがワガママで我が強かったんですよね。すぐ怒るし。俺の家まで来て、仕事のグチを一晩中きかされるなんて、しょっちゅうだったし。なにより付き合って1週間ぐらいで結婚がどうとか言い出して『はやめに結婚したいから逆算すると、今から遊んでられない』みたいなこと言いだして、こっちは全然その気じゃないですよ。そんなに、すぐ、なれるわけないじゃないですか」

「向こうって、いくつだったっけ?」

「24でしたね」

「っていうか、そんな長い人生プラン考えてンのに2か月で終了って…」

「ですよね、本当。というわけで出戻りました。今後もお願いします、乾杯」

「はは。その会話の繋がり、全然わかんないけど。とりあえず乾杯」

 

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「はじめて会ったのは5月頃だっけ? スーツを着ていたから暑くはなかったはずだけど」

「5月です。あのとき先輩が街コンはじめてって言ったのは、未だに俺は信用してないっすよ」

「いや、マジだって。一度行ってみたかったんだって、街コン」

「立ち回り方、うますぎですよ。途中の好感度アンケートでも女子人気1位だったじゃないですか」

 (……そりゃ男のスペックが低かったからなんだよなあ)

 「前も言ったけど、ああいうパーティー形式は、数年間は腐るぐらい行ってたんだよ。多いときは週2、週3ぐらいのペースで。だから、あんなの少しテンションを上げて、振る舞い方を工夫すれば、誰だって1位を取れたよ。いや1位は、運の要素があるにしても、自分の好みの子と仲良くなるなんて簡単だと思う。もともと彼氏が欲しい女の子で溢れかえってる場のワケだから、要は慣れだよ。それだけ」

「そんなもんスかねえ」

「ほら!それに、あの街コンがきっかけで、伊藤くんは彼女ができたのに、僕にはできないじゃん。1位なのに」

「そりゃ先輩の場合、どうせ『付き合わなかった』ってだけじゃないですか?」

「はははははは、面白いコトを言うな、オマエは」

 

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「それじゃあ、しばらくは『次』とか考えてないの?」

「いやいや、明日、合コンです」

「行動はやっ! 別れたてホヤホヤのくせしてっ!」

「逆に、あっさり短く終わったから、次が早くなるんじゃないですかね」

「なるほど」

「それに、シンゴが今イケイケだから、俺も影響うけてると思います」

「シンゴくん? 最近、会ってるの?」

「先々週の金曜、ここで飲んだんですよ」

「へえ~。しばらく会ってないな! 彼女とか出来てた?」

「あの8月の合コンで会った『サキ』って子、いたじゃないですか」

「……誰だっけ、それ」

「いや、○○△△○○△△(特徴をまくしたてる)っていたじゃないですか」

「あ、そういえば。大宮の美容師で、お兄ちゃんが自衛隊で、野田線のどっかに実家があるっていう22のコか」

「なんですか!! 俺より詳しいじゃないですか!!(笑)」

「はは、急に思い出した。で、シンゴくんの話だ」

「あの2人、付き合ってるらしいんですよ」

「へえ~! 良かったじゃん! あの子、ちょっと丸いけど愛嬌あるし、シンゴくんに合うんじゃない? いつから?」

「先週からです。付き合いはじめですよ」

「そうなんだ。なんかシンゴくんは、大学の頃、4年間つきあった彼女と別れて、それ以来、女の子と付き合ったことないって言ってたから、ちゃんと彼女が出来たんだなって知って嬉しい」

「あ。先輩、知らないんですね」

「え? なにが?」

「5月の街コンで『ゆきえ』いたじゃないですか」

「いたね。ゆるふわパーマの子」

「シンゴ、あの子とも付き合ってましたよ」

「…………へ、へぇ~!

「やっぱり知らなかったんですね」

「うん。なんでアイツ、ぜんぜん言わないんだろ…?」

「サキは最新情報ですからねえ。あと、ほら先輩、ゆきえと最後のゲームでカップルになってたじゃないですか」

「ゲームじゃん、あれ!ゲーム!」

「だけど、シンゴのやつ、言いづらかったんじゃないですかね? あれで」

「だいたい彼、ゆきえじゃなくて。美智子サンのほうが好みって言ってなかったっけ?」

「いやー、でも、ゆきえと付き合ってました。美智子サンはレベルが高いから、いずれにせよ、シンゴじゃ無理でしたよ」

「付き合ってたのは、いつから?」

「6月から、9月のアタマぐらいまでだったかと思います」

「それも早いなあ」

「なんか、付き合うペースがどんどん速くなってるのは、先輩の影響だって先週、シンゴが嘆いてました」

「え…なんだそれ?」

「先輩と飲んでから変わったって言ってましたよ。俺と同じですね」

 

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「それじゃ明日の合コンが、とりあえず復帰第一戦なわけだ」

「そうですね。それと今週末デートです」

「好調じゃん。この前まで女の子と付き合ったこともなかった人が」

「なんか急に始まった感じがして、少し戸惑ってる部分もあります」

「でも、それが普通なんだよ。20代後半は、たくさん遊ぶ時期だと思う。伊藤くんは遅い始まりだったから、いっぱい動いて、その分を取り返せばいい」

「そんなものですかね」

「そういうものだよ。交際って結局、なんだかんだ慣れと経験だもん。今回ダメだったけど、基本的には1人目より、2人目のほうが交際はうまくいくからね。『前回なにがダメだったか』を理解していて、次はそうしないように努めるわけだから。自分が求めているものと、女の子の気持ちを理解しながら。付き合えば付き合うほど、うまくなるはずなんだ。自分に合う相手の見つけ方や、想いやりが上手くなるっていうか」

「なんだかスポーツとかの練習みたいですね」

「交際なんて、結婚前の練習みたいなものだと僕は思ってるよ。もっとも『ずっと練習のままでいい』『練習の方がいい』って人たちを否定するつもりもないけど」

 

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「ところでデートする子って、どんな子なの?」

「小中学生に教える音楽教室の先生です。28歳だから、俺の一個上ですね」

「へえ。音楽の先生って、やさしそう」

「次で3回目のデートです。結構、気が合うなーって思ってます」

「2週間前に別れたばかりなのに、もう3回デートと合コンしてるって精力的(笑)」

「あ~…いや、前の子は、最後のほう別れたくてしょうがなかったんで、先に、こっそりデートを」

「あはは」

「先輩が言ったんですよ。『女の子と付き合いたかったら併願受験しろ』って」

「あぁ、出会いの数を増やさないとチャンスがないって意味で言った話ね。……で、当日はどうするの?」

「当日は…向こうが横浜いったことないって言ってて、俺が地元なんで、じゃあ案内するよって感じです」

「あ、そうじゃない。どこまでいくのかって話」

「えっと…だから横浜ですよ」

「違う。キスまでなのか。セックスするのかって意味」

「なに言ってんですか!? しませんよっ!

「……しないの?」

「突然、なに言ってるんですか!?」

「伊藤くんこそ何いってるんだ? だいたい彼女のこと、どう思ってるの?」

「どうって……いいなぁって思ってますよ」

「それだけ? 3回もデートをして、それだけしか思ってないの?」

「そうですね」

「ねえ、3回も誘われて、ノコノコ来てくれる女の子も、そんなにホンワカ考えてると、伊藤くんはマジで考えてるの?」

「いや……それは知らないですけど、でも俺のペースってあるんですよ」

「『俺のペースは彼女のペースじゃないかもしれない』って、なぜ考えないの?」

「えっと……なにかしてもいいんですかね?」

「だいたい3回もデートして『気が合う』って思ってるだけっていうのは、向こうに失礼だと思う」

「失礼ですか」

「その可能性もあるっていうか、既に向こうが伊藤くんのこといいなって思ってくれていたら、并上くんの考えは彼女をヤキモキさせてる可能性があって、そうだったら彼女が可哀想だと思ってる」

「3回ぐらいですよ。まだ」

「ふたりは社会人なわけだし、デートっていうのは日中なわけでしょう?」

「そうです。土日に」

「ということは、彼女は、伊藤くんと2人で遊ぶために、すでに3日間も休日を使ってるってことになるよ」

「そうですね」

「なのに相手は、伊藤くんのことを相手の気持ちを確かめるために、何もしてないし、する気もないの?」

「いや……まあ上手くいったらいいなあって思ってますよ」

「上手くっていうのは何? セックス?」

「違いますよ! いや、まあ…付き合えたらなあって」

「やっぱり、それが本音なんじゃん」

「は…はい」

「ってことは、その本音いわないで、ただ(いいなあ…)って思ってる子と会って、そのことを伝えないで、ふたりで遊んで、ゴハン食べて、帰ってるってだけのことを、もう3回したってことだよ? じゃ本音は、いつ言うの?」

「いつ言う……いい感じになったら、言おうかなぁって……」

「その、いい感じが来なくて、言わないままだったら、あと何回デートするの?」

「何回……なんですかね?」

「僕は思うけど、そういういい感じって、自分で作ろうとしないと来ないよ」

「そうかもしれないです」

「逆に言うと、その子のことは『運任せでいいや』って感じで、たいして好きじゃないってことなの?」

「いや、そういうわけじゃないんですけど」

「2人の関係を、どうにかしたいって思わないと、どうにもならない。今まで伊藤くんがやってきたことは、ただ呼びつけただけじゃん」

「俺、こういうの恋愛事って慣れてないから、どう考えればいいんだろうって思うんですよね」

「それは普段と変わらなくていいんだよ。たとえば仕事の上司とか同僚とかの関係と同じでいいんだ」

「じ、上司ですか?」

「伊藤くんは27歳でしょ。社会人になって4、5年ぐらいだと思うけど、やっぱり、ある程度、長い間やってると『あの上司だったら、ああ言ってくるだろうな』って先回りして動いたりすることあるでしょ。それは上司の考えてる事を想像して、動いてるってこと。それと同じことを女の子に対して、やるんだ。どうやったら女の子が喜んでくれるか。または3回誘っても来てくれるってことは悪くは思われてないだろうって。じゃあ次は、どうすれば、うまくいくんだろう。あるいは、もうちょっと踏み込んでみようってこととか、相手の考えることを想像して動くんだ」

「それ…超難しいっす」

「わかるよ。でも僕は『相手への想いやり』ってことを言い換えてるだけだよ。恋愛って、相手のことが好きになると、脳が少しおかしくなるから慣れてないと、そういう『相手のことを考えて動く』ってことができなくなる。他の人が相手だと普通にやってることでもね。だから色々ひっくるめて、慣れと経験が必要なんだ。女ゴコロって、やっぱり男にはわからないところも、いっぱいあるから。経験を積まない限り、女の子に優しくなれない。こんなこと言ってる僕だって、まだまだだ。あとはもう人間同士の相性なんだけど、今回は大丈夫みたいだから、伊藤くんは優しいから、普段と変わらなくていいんだよ」

「普段と変わらなくていい…ですか」

「どうしたらいいかという悩むなら、ふだんの自分だったら、大事な友達や、仕事仲間に、どうしてきたかを基準にすればいい。だけど、今までみたいに目的があいまいなまま、女の子に会うのは、もう辞めたほうがいいと思う。その子と何をしたいか、どうなりたいのか決めないと、お互いの時間のムダになるよ」

「わかりました」

「まあ今回ダメでも、練習の一環だよ」

それはヒドイです!

「(笑) まぁ成功失敗はともかく、ちゃんと踏み込めたら、次はもっと上手になるって。僕なんて、もうバカみたいにフラレまくってる」

「はい。……ところで、シンゴにも、こんなアドバイスしたんですか?」

「だいたい同じことを言ったはずなんだけど、どうも彼は想定外の方向にいったなと今日、思ったところ(笑)」

「アイツも先輩と、また飲みたいって言ってましたよ」

船橋は遠すぎるからなあ。こっちに来てくれるなら、いつでも付き合うよ」

 

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 伊藤くん、シンゴくん。ふたりとは5月の街コンで知り合った。次に会ったのは、シンゴくんが企画した合コン。それから。シンゴくんとふたりきりで飲み、今日は并上くんと。

 不特定多数の女性と性交渉をしたがる僕は、なぜか今日のような、こういう男性の恋愛の悩みや戸惑いを聴くたびに、つい真剣に応えようとしている自分がいることに気づく。

 それは何故なんだろうって、いつも考えてる。

 やっぱりナンパを含め、女遊びって、どうしても大なり小なり、嘘をつくことはあるから、男性に対しては誠実であろうとすることで、自分のバランスを取ろうとしているのか。または、自分のだらしなさを棚にあげて、他人には普通の恋愛をして欲しいという願望なのか。あるいは、その両方というのが最近の自己分析の仮説だ。けれども、どちらにしたところで、それって不良の兄貴が、弟に「おまえは俺みたいになるなよ」と言うのとレベル的には大差ないじゃん、と自嘲する他なく、目下、別の理由を探索中。まったく。

 本当のところ、伊藤くんにいった言葉も正解であるかはわからない。たぶん正解なんかない。ただ、僕の考えを仮の正解として、彼らが前に進めるなら、それでいいと思う。

 

 その夜、僕はシンゴくんにメールを打った。「伊藤くんと飲んだよ。楽しかった。今度、一緒に飲みに行こう」という短いもの。5分間も悩んで、結果的に、そうなったもの。

 

 サキ、ゆきえ、美智子。

 

 僕が出会って、全員、1週間以内に準即をした子たち。

 

 そのことを書いた長い文章を、消して、短くなったものを送った。