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タイガーナンパーカット

ナンパ、出会い、恋愛、性的嗜好。menonsoup@gmail.com

マチダパーク・寂しい女

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 正直、連絡がきても、彼女のことは全く思い出せなかった。ナンパをしてる時は大なり小なり酔っ払ってることが多いんだけど、終電近くになってドーピングが変な方向にキマると、まれに記憶が飛んでいることがある。そういう時は番ゲをしても相手のことを覚えてなくて結局、連絡しないのもザラだから、彼女のことも、そんなふうに埋もれたひとりだと思っていた。

 

 LINEのアイコンでは、いまいち顔を確認できかったが、カールの巻かれた栗色の髪は、きれいに整っていたし、服装はギャルっぽかった。やりとりをしているうちに、かろうじて思い出したのは彼氏と6年も付き合って、結婚を秒読み段階で、別れてしまったエピソードだけ。顔は思い出せない。信じられるものは、もはや自分しかいないわけだが、あいにく酔拳状態の自分の信頼は豚珍館の紙かつより薄かった。しかし会話のやりとりから、彼女の食いつきは高いように感じられたので、ついつい続けてしまった。

 

 彼女は料理が趣味とのことだったので「あたたかい手料理なんて久しく食べてない」と言ってみたところ「じゃあ私で良かったら作りましょうか?」ということになり、くしくも平日夜のアポが決定した。おいおい、なんだ、このチョロすぎるゲーム展開は。

 唯一の欠点といえば、彼女の家は町田市の片田舎で、我が家から遠いことだったが、夜遅くに女の家にメシを食いにいくという勝ち確シチュエーションを見過ごすには自分は即系すぎた。あと本当に手料理に飢えていた。ちなみに「おまえの家に来させればいいじゃないか」という意見について答えておくと、僕の家には調理器具というものが一切ない。

 

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 町田というと109があるから「だいたい都会だろう」という意識は、もろくも崩れ去った。私鉄とJRを乗り換えて降りた先は駅前だというのに、草原が広がった光景だった。おまけに街灯も全然ないから、自分の指の本数さえ視認が怪しいほどの暗さ。このとき(えらいところに来てしまった)という後悔は、すでにあった。

 ただ、もう来てしまったし連絡をすると「いま車なので迎えに来ます」と返信がきた。車もってたのか。

 しかし15分は待ったが、姿は一向に見えない。いい加減、寒くなってきてイライラしてきたところ「白い服きてますか?」とLINEが送られてきた。応えると、公衆電話のボックスの陰から、件の彼女らしき人が登場した。

「…………」

 なにも言わない。

「あ、いたんだね♪  声をかけてくれれば良かったのに」明るい声を出した。

「…………」

 応えない。

「え……なんで無言なの?」

「…………」

「…………」

「…………こんばんは」

 ペコリ、と頭を下げられる。なんか言って欲しい。

「……荷物、多いね。重いんじゃないの?」

 大きなショルダーバッグをかかえていた。

「はい」

 彼女は、なんていうか「異常にテンションが低い時の中森明菜」のような話し方をする。

 2,3回同じ質問をして、ようやく返すみたいな。

「じゃあ行こうよ。車はあっち?」

「……車じゃないです」

 はい? と思った。「車で来たんじゃないの?」と訊くと「……車で来ました」と応える。

 ディスコミュニケーション。要約すると、両親の車で、ここに連れてきてもらった、ということだった。

「なるほど。じゃあ、おうちは、ここから近いの?」

「……20分ぐらい」

 ずいぶん遠いね、ここから歩いて帰るの?

「帰らないです」

 はい? と思った。家に帰らないと料理が作れないじゃん、と聞くと、彼女は「大丈夫です」と言った。

 面倒なやりとりだったので、また要約。ショルダーバッグの中にあるのは、お弁当である。自分は実家暮らしで、両親も住んでいるから、あなたを家には上げられない。だから、お弁当を作ってきた。これから公園に行って、一緒に食べるつもりだ、ということだ。


 駅前で話を聞きながら、疑念がどんどん湧き上がってきた。まず「家で料理を作ってる」からといって、一人暮らしじゃない、ということは、まぁ認めてもいい。だけど「あたたかい手料理」と僕は言ったはずで、それを振る舞うって言ったからには「家に上げる」→ 「一人暮らしをしてる」と誤解しても仕方ないんじゃないか。

 そもそも「暖かい手料理」を所望したのに、それが、どうして「弁当を作ってきたから公園で食べましょう」なんて話になるのだろう? もっとも「私、実家ぐらしなんで家には上げられないですけど、お弁当ぐらいなら作ってもいいですよ」って事前に言うべきだと思う。夜20時に野外で、手作り弁当を食べるって、どんなシチュエーションなんだよ。

 どんなシチュエーションかは、身を以って体験することとなった。

 

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 今となっては「話が違うじゃん。帰るよ」と言えば良かったと思うのだが、勝ち確だとホイホイ来てしまった遠方だったし、なにより、せっかく作ってきてくれた弁当に罪はなかった。ショルダーバッグのなかに自分の為に作ってきてくれた弁当があるのに知らねーよ、と開き直ることが、どうにも出来なかった。

 

 公園にいく間、自分は彼女に始終、話をふっていた。彼女は完璧な受け身体質で、服装はラメのついたシャツを着て、カールの茶髪をしてるくせに、びっくりするぐらい無口だった。ボールを投げても、ろくに返ってこないことが多いので、そのうち投げることもやめてしまった。だが無言のまま歩いても、一向に「公園」とやらは見えてこないので、だんだん僕は怖くなってきた。夜21時近くの道路沿い、ろくな街灯もないまま、知らない道を10分以上、歩くというのは怖い。タクシーを拾って帰りたかったが、それすらも一向に通らない。サンキュー田舎。

 

「ほんとうに、この前に公園があるの?」ということを何度も聞いた。

「もうすぐ」と毎回同じ答えが返ってきた。

 

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 朗報。公園はあった。彼女のいう「公園」とはブランコや滑り台という街の公園ではなく、グラウンドやテニス場、芝生やサイクリングコースなどが設置された大規模な市民公園のことだった。近くまで歩くと、街灯が我々の顔を照らしたので、ひとまず安心した。

 近くの6人がけのテーブルに対面に座ると、彼女は無言で、お弁当を広げた。マイメロキャラ弁当箱。段組の弁当箱は4つぐらいに別れた。おにぎり。おかず。サラダ。デザート。「どうぞ」といわれた。が、正直、ここまでの展開が不気味というか相当な不安が、心のなかを支配していたので、しばらく手をつけなかった。「味見した?」と茶化して言うと「しなかったけど大丈夫だと思う」と応えたので「じゃあ確認しよ」と僕は彼女を急かした。本当に申し訳ないけど、毒味確認だった。

 にも関わらず彼女が手をつけようとしないので、ますます不安に駆られた。

 

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 ただ5分ぐらい2人は対峙したままだったので最終的に自分が折れた。ままよ、とばかりに唐揚げを食べた。「飲む」に近い食べ方。かろうじてわかる味は普通だった。次に、小さくラップでくるまれた、おにぎりを食べた。これも普通だった……そう、しいていうなら。

「きみの家……薄味なんだね」

「うん」と彼女は言う。「おかあさんの旦那さんが糖尿だから」

 食べながら話を聞いた。彼女もだんだん人見知りが解けたように、話した。両親は離婚して、自分は母親についていった。母親は数年前に再婚。仲は悪くないけど、新しい人は、いまいち「お父さん」って感じじゃない。だから「お母さんの旦那さん」。弟がいる。恋人の女性を追っかけて、九州にいって以来、数年、ほとんど連絡が取れない。その弟の彼女はヤクザだから、弟もそうなった可能性は高いと思う。

「心配じゃないの? 連絡はこないの?」

「去年、お母さんに電話がきたみたいだから、たぶん大丈夫だと思う」

 いったい、なにが大丈夫なのか全く理解できなかったが、口は「そうなんだ」と動いていた。

 どうしたものかな、と僕は思った。もはやナンパとか、そういう心境じゃない。夜22時にもなって、なんで薄味の弁当を食べてるのか自分でもわかんないな、と思いながら、マイメロのフォークでサラダをつついた。

「彼氏と別れて、どれぐらいなの?」

「去年……」

 こんなにコミュニケーションが乏しい女の子に6年間も彼氏がいたなんて、人は出会う人には出会うようにできてるんだなぁと妙に感動した。

「去年のいつ頃?」

「夏ぐらい」

「1年ちょっと前だね」

「そうだね。もうそんなに」

「それぐらいが一番さびしい頃なんだよね」

「うん……寂しい」

「わかるよ」

 気がついたら仕事していた。

 

 駅前のホテルに入り、終電で帰った。彼女から、しばらくの間、連絡がきた。たぶん僕に未練があったのだろう。朝になると「おはよう」、夜になると「おやすみ」というLINE。あいさつだけ。自分も「うん。おはよう」とだけ返した。話題を広げるつもりがなかった。そのうち連絡が途切れた。

 なんだか寂しい子だなと思った。正直セックスもそうだった。寂しいセックスというのは、この世に存在する。

 たぶん、それは寂しい女の子と同じ数なような気がする。

 

 

 

BAD COMMUNICATION

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