タイガーナンパーカット

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個人的な体験による街コン引退宣言

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 興味本位で4回も参加してしまった街コンだけど、そろそろ引退しようと思う。もはや言い訳でしかないけれど、当初1回で行くのは辞めようと考えていた。にも関わらず、その1回で、たまたま出来た「街コン友達」のような存在が、今年の春から、今に至るまで続くとは思ってもみなかった。彼らとの縁を保ちたいがため、僕は参加し続けていたのかもしれない。

 僕の「街コン友達」は3人いる。彼らは「かわいい女の子と知り合いたい」「彼女を作りたい」というイベント主旨通りの純粋な目的で活動している、という点だけは、あらかじめ先に断っておく(僕とは違う、ということを)。

 

 きっかけは先月、熱の篭った電話の誘いからだった。

「急な話なんですけど今夜、男女、各200人同士の参加で、男子枠が余っていて、女子はキャンセル待ちだそうです。恵比寿のオシャレな女の子と、いっぱい知り合えるチャンスだと思いませんか?」

 話を聞いて、なにが「チャンス」なんだろう、と思った。恵比寿なんて単なる開催場所でしかない。向こうだって「恵比寿に住む男と知り合えるかも」と勘違いした、千葉の田舎娘が来る可能性だって充分にあるだろう、と千葉県民の彼に冷静にツッコんだうえで、結局は参加OKと返答した。要するに僕もヒマだった。後から参加費を聞き、少し後悔したが、今さら引けなかったので、気持ちを切り替えることにした。

 男の枠が余ってるのに、女がキャンセル待ち? そんなことが有り得るのか? という疑問は片隅にあったものの、なにせ200人だ。そこまで大人数が来れば、かわいい子もいるだろう、と夜に向けて、気持ちは高揚した。

 

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  しかし3時間にも及ぶ、街コンの終了後、僕の携帯に登録された番号は、たったの4件だった。参加費というコストを考えると、最低その倍は番ゲしておきたかった。

 あらかじめ決めていたサンマルクに、僕ら4人が集合して、話を聞いたところ、彼らも似た戦果を応えていた。無論かなり厳選していたとはいえ、さすがに話がおかしいと、僕は薄々考えはじめていた。

 

 少なすぎたのだ。女子の数が。

 

 そもそも今回は、男女合わせて400人参加という話で、しかも女性はキャンセル待ちだと言うなら、少なく見積もっても、男女全体で300人ぐらいは集まっていると見てもいいはずだった。

 それなのに開催側が指定したのは、3つの居酒屋を貸し切ったのみだった。しかも3店舗とも行ったが、50人も入れば満員になるぐらい、小さい店だ。目算でしかないとはいえ、それでも200人も入るのは無理だと確信できた。

 さらにいえば男女比も、さほどあったようには見えなかった。下手をすれば同じぐらいだ。

「どういうことなんだろう?」

 僕は言った。アイスコーヒーにガムシロップを投下しても、苦みが消えなかった。

「それでも多かったですよ。それに3時間という長丁場で、ゆっくり相手を見定められたじゃないですか」

 ひとりが言う。それでも多い? そうではない。数は簡単に無視できない。

 街コンに参加してみるとわかるが、確実に女性側には「やる気のない女」というのがいる。

 たとえば女性4人組で参加した場合がそうだ。街コンは基本2人コンビで移動する。だから4人の場合、2人ずつに分かれる。賭けてもいいが、この4人はまず確実に全員「彼氏が欲しい」とか「男友達が欲しい」と考えてはいない。だいたい2人が乗り気で、残りの2人が付き合いで参加していることが多い。そこで「乗り気組」と「やる気なし組」に分かれる。この「付き合い」参加は、女性特有の連帯意識ゆえだ。

 もっとも、そんな女性からも好意をもぎ取れるほど実力がある男なら、この文章を読んで鼻で笑うところだろうが、残念ながら僕の実力は高くなかった。加えて、僕自身の女性の好みだってある。その選別の結果が4つしかない。

 

 だが、これは実力の問題だけではないと思った。流れに納得できなかった。とはいえ憤っても仕方がない。たまにはハズレもある。すでに会の終了から1時間以上は、ゆうに経っていたし、ひとまず我々は帰ることにした。

 

 その帰り際、恵比寿の駅前で、友達のヒトシが「あ」と指差した。

 

 路上に、ふたりの女の子がいた。

  ひとりは秋元才加に似た顔だちで、大人っぽい服装。もうひとりは丸くてかわいい系だった。

 

 ヒトシが指差した理由は、秋元才加のほうが好みだったんだけど、いつも他の男と話していたから割って入れなかったっていう内容だった。確かに彼女たちの手首には、参加者の証であるリストバンドが着けられたままだった。

 彼女たちは駅前で立っているだけで、動こうとする様子がなかった。

「だったら声をかければいいじゃん」

 ヒトシは顏は普通だけど、僕の3倍はトークカがある。おもしろノリ系だ。

「え? い…行きますか?」

 だけど、その3倍ビビりだ。初対面の人に話しかけることができない。

 

「すみません。今夜の街コン参加されてましたか?」

 すったもんだあって結局、僕が話しかけた。

「あ、はい」

「楽しかったですね。イイ人いましたか~?」

「いや~どうなんでしょ~」

「ところで、ここで、おふたりは何をしてたんですか? 」

「はい。ちょっと…友達を待ってます」

 ふたりいる女子のなかで、秋元才加のほうがリーダーらしく僕の相手をしてくれた。コンサバティブな恰好をしていて、大人っぽいタイプ。5分ぐらい会話をしたがオープンする気配がない。僕には無理だと思って、ヒトシを呼んだ。

 ヒトシが来たら場の雰囲気が変わった。彼は「今日は恵比寿に来る前に、仕事で(※イケメン俳優)に会ったが、本当にカッコ良いと思っていたところ、自分は江頭2:50にしか似ていない、と職場の同僚に言われて、くやしい」というエピソードを、さりげなく「ガッペムカつく」のポーズをして話すことで、僕たちに「本人ノリノリじゃん」とツッコませるという、コントを瞬時に作った。その後もネタ話の投下して、女の子はドッカンドッカン笑った。完全にオープンした、と思った。

 そうして場を温めてからの「また今度飲みたいから連絡先交換しましょう」とヒトシの誘い。僕個人のストリートでの感覚でも8割、番ゲできる流れだった。ましてや「お互い街コン帰り」という状況だ。現に、丸い子のほうは、既に左手にスマホを持っていた。

 もうひと押しだ、と思ったが、

「いや、それはイヤですね」

 秋元才加が能面のような表情で断った。鞄を持った手はピクリとも動かなかった。

 男性陣は、みんな驚いたはずだ。ここで崩れない、なんてあるのか。

 たかが番号だぞ? ここまで腹抱えて笑って、番号すらダメってどういうことだ? 理解できなかった。

「わかりました」

 一旦引いた。悔しかったのもあったと思う。

 笑わせてダメなら、詰めることしか、僕には思いつかなかった。

「それは僕たちに番号は教えてもらえないし、もう会う気もないってことですよね?」

「そうですね」

 ばつが悪そうなそぶりすらなかった。きっと街で配られるティッシュを断る時も、彼女は、こんな表情なのだろう。

「了解です。じゃ諦めます。でも最後に、ひとつだけ教えてもらっていいですか?」

「いいですよ」

「今日、街コン中、何人の男性と番号を交換したんですか?」

「4人です」

「では、その4人と僕たちで何が違うんでしょうか? その人たちも参加者だったし、僕たちも参加していました。条件は五分のはずです。あえていうと時間帯しか違いません」

「そうですね」

「そんなに僕たち、悪い人間に見えますか?」

「いいえ、とんでもない。面白かったです。笑いました」

「でも時間帯と場所が変わっただけで、あなたと友達になれるチャンスはなくなるものなんですか?」

「そうです」

 はっきり答えられた。

「お金を払った『街コン』という会場でなら、知らない男と話してもいいと思えるのに、なぜ一歩でも外に出たら、さっきまで参加者だった人と交流を結びたくない、なんて思うんでしょうか?」

「さあ? どうしてですかねぇ?」

 はぐらかされて、一瞬、頭に血が上った。しかし、そもそも僕のワガママなのだ。

 ひとつだけ分かったのは、僕には、この女性が理解できない、ということだ。

「了解です。ありがとうございました」完敗だった。

 顔をあげるや否や、さっさと駅に向き直って「帰ろう」と言った。

 

「どうだった?」

 街コン友達のシンゴが訊いた。

「いや、ダメだった」

 ヒトシは一度は駅の改札をくぐったが、やっぱり諦めきれないと、秋元才加に特攻していた。「ガッツありますね」と彼女は言ったらしい。そこだけは僕も彼女に同感だった。

「なぜダメだったんだろう?」

 そうヒトシは言って、しばらく頭を抱えたが、ふと急に大声を出した。

「あ、でも、俺が去る前に、さっき彼女と幹事が会っていたの見た!」

 天啓でも思いついたかのような声だった。

「どういうことだ?」とシンゴ。

「そうだよ! 今日、最初に『開始の挨拶』をしてた、おっさんいたじゃん。あいつ幹事だろう? 道理で見覚えあるなと思ったんだ」

 僕たちは各々の反応で同意した。自称はしていなかったが、挨拶をした以上、開催者側であることは間違いない。

「俺、去り際に、後ろ振り返ったら、チラッと見えたんだよ。 あいつと彼女が、めっちゃ笑って話していたのを!」

 ヒトシは天啓のあと、仮説を語った。

 要はこういうことだ。街コンが終わった後も、彼女たちが待っていたのは、友達ではなく、幹事だったのだ。なぜ、幹事と、彼女たちが仲良く話していたか? 彼女たちはサクラだったのだ。女の子のキャンセル待ちなんて嘘だったのだ。表向き、そういう盛況のふりをして男子の参加を煽る。その目的は、女子よりも2倍以上もの高額な男子の参加費を回収すること。

 つまり、僕たちはサクラだとわからず、「仕事後」の彼女たちに声をかけていた…?

 ばかみたいに?

  そうであれば、我々の今回の疑念も一応の説明もついた。事前の「女性側のキャンセル待ち」というバランス比。/実際の参加人数の少なさ、男女比率とのフェイク。/女の子たちが、あれほどオープンしていたのに、番号交換に応じない理由。/彼女と幹事が談笑していたという理由。

 僕は熱を帯びるヒトシの言葉を聞いていた。

 真実を突き止めたわけじゃない。そもそも根拠が乏しい。

 所詮は被害者意識かもしれない。いや、そっちのほうが遥か現実味がある。

 ちゃんと開催もされた。だから、ぼったくられたワケじゃない。

 そんなことはわかってる。すべて、わかってる。

 でも。

 でも。

 でも。

 

「○○さん」ヒトシが僕を呼んだ。「ナンパ教えてくれませんか」

 

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 その後、ヒトシは渋谷で、僕から簡単なレクチャーを受け、終電まで声掛けした。他のふたりは帰った。僕は酔ってはいたが缶コーヒーを片手に、ヒトシの半ばやけくそぶりを見ていた。やけくそだと感じたのは、ふだん彼の好みではないような容姿の子にも特攻していたからだ。ついでに言うと、なにか余裕のなさも印象に残った。

 結局、終電までの30分、1番ゲも彼はできなかった。「とりあえず、あがきました」ヒトシは最後にそういった。

 

 ナンパをするにも理由はある。しかし誰かの土俵の上で女の子に会おうとすると、どうしてもこういうことはあると思う。僕は「市場の倫理」を否定しない。業者も否定しない。つくづく女の子を得るって戦いなんだなと思う。きっと女の子にはわかってもらえないかもしれないけれど、僕たちには個人的な戦いがある。

 

 だけど傷つくなら、誰かが仕掛けた不意打ちなんかより、自分で覚悟して受けるもののほうがいい。

 

 この前のヒトシの声かけは、そんな感じだった。